大相撲の象徴「大銀杏」とは?結える条件と丁髷との決定的な違い
大相撲の土俵で力強くぶつかり合う関取たちの頭上を華やかに彩る「大銀杏(おおいちょう)」。先端が美しい扇状に広がるその髪型は、日本の国技が誇る伝統美と格式の象徴として国内外から高い関心を集めています。しかし、土俵に上がるすべての力士が結えるわけではなく、そこには相撲界ならではの極めて厳格な身分規定が存在します。
大相撲の歴史において、なぜこの髪型が選ばれ、受け継がれてきたのか。通常の「ちょんまげ(丁髷)」との決定的な違いや、大銀杏を結うために必要な髪の長さ、専属の職人である「床山(とこやま)」が誇る驚異の技術まで、相撲観戦を何倍も深く楽しむための知識を徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 結える条件:大相撲で大銀杏を結えるのは、十両(十枚目)以上の「関取」のみという厳格な身分規定が存在する。
- ちょんまげとの違い:先端の「ハケ先」をイチョウの葉のように扇状に広げる形状美に加え、土俵転倒時の衝撃を和らげるクッションの役割を持つ。
- 床山の職人技:熱を帯びた鬢付け油と元結を駆使し、わずか10〜15分で力士の骨格に合わせたミリ単位の芸術を完成させる。
【格式の象徴】大銀杏とは?知っておくべき基本構造と歴史の真相
大銀杏(おおいちょう)とは、大相撲の十両(十枚目)以上の力士、すなわち「関取」と呼ばれる身分の力士だけが結うことを許された特別な髪型です。髷(まげ)の先端部分(ハケ先)を、まるで大きなイチョウの葉のように丸く平らに広げることからこの名が付けられました。
歴史を遡ると、江戸時代の武士や町人の間で結われていた髷の一種がルーツとなっています。明治維新の「散髪脱刀令(1871年)」によって日本人の髪型が劇的に洋風化するなか、相撲界は日本古来の伝統と美意識を守り抜くため、髷を結い続ける道を選択しました。昭和の大横綱・双葉山をはじめとする歴代の名力士たちが土俵入りの際に際立つ威厳を示してきた背景には、この大銀杏が持つ格式の高さがあります。
現代において大銀杏は単なる伝統的な装飾にとどまらず、「一人前の関取であることの身分証明」であり、神事としての相撲の品格を支える不可欠なアイデンティティとなっています。

【徹底比較】大銀杏と通常の「ちょんまげ」における決定的な4つの違い
相撲ファンの間でも混同されやすいのが、幕下以下の力士が結う通常の「ちょんまげ(丁髷)」と「大銀杏」の違いです。両者の間には、見た目の形状だけでなく、身分・機能面でも明確な境界線が引かれています。
| 項目 | 大銀杏(おおいちょう) | 通常のちょんまげ(丁髷) | 編集部の見解・実態 |
|---|---|---|---|
| 結える力士の資格 | 十両以上の関取(幕内・横綱含む) | 幕下以下の力士養成員全般 | 相撲界における「プロの壁」を可視化する指標。 |
| 先端(ハケ先)の形状 | 扇状に広く丸く広げる | 細く棒状にまとめる(広げない) | 大銀杏は遠目から見ても迫力と華やかさが際立つ。 |
| 結うシチュエーション | 本場所の取組、土俵入り、公式行事 | 日常の稽古、本場所取組、私生活 | 関取も普段の稽古時はちょんまげで過ごす。 |
| 衝撃吸収の役割 | 非常に高い(天然のヘルメット機能) | 標準的(髪の厚みによる保護) | 土俵から転落した際の後頭部保護に直結する。 |
大銀杏の最大の特徴である扇状の「ハケ先」は、単なる美観の追求ではありません。激しい立ち合いで土俵下に転落した際、硬い土俵や板の間に後頭部を強打するのを防ぐクッション(天然のヘルメット)としての実用的な機能を備えています。
【関取の証】大銀杏を結える厳格な条件|幕下以下が結えない理由
日本相撲協会の規定により、本場所の土俵で大銀杏を結うことが許されるのは「十両以上の関取」に限定されています。幕下、三段目、序二段、序ノ口の「力士養成員」と呼ばれる力士たちは、本場所の取組であっても通常のちょんまげで土俵に上がらなければなりません。
相撲界において、十両昇進は「天と地ほどの差」があると言われます。月給の支給、付け人の配置、個室の付与、締め込み(絹のまわし)の着用など、あらゆる待遇が劇的に変化しますが、その中でも「大銀杏を結って本場所の土俵に立つこと」こそが、力士にとって最大のステータスとされています。
なお、新十両に昇進した力士が初めて大銀杏を結うタイミングは、昇進決定後の番付発表前後に行われる記念撮影や、昇進後初となる本場所の初日です。関取として認められた瞬間に初めて許されるこの儀礼は、入門から過酷な下積み生活を耐え抜いた力士にとって涙が出るほど誇らしい瞬間となります。

【実態検証】髪の長さが足りない場合は?「ざんばら頭」で土俵に上がる特例
近年、大学相撲出身者や突出した才能を持つ若手力士の台頭により、スピード出世を果たすケースが増加しています。ここで発生するのが「大銀杏を結う資格はあるが、物理的に髪の長さが足りない」という現象です。
力士が大銀杏を結うためには、前髪を伸ばして髷の束に引き入れ、後頭部で美しい扇形を作るため、少なくとも肩下10cm〜15cm程度の長さ(入門から約1年〜1年半以上の伸長期間)が必要とされます。幕下付け出しなどで初土俵を踏み、わずか数場所で幕内や三役へ駆け上がったスピード出世力士(近年の遠藤、尊富士、大の里など)は、髪の成長が番付の昇進スピードに追いつきません。
その結果、髪を後ろで束ねただけの「ざんばら頭」のまま幕内の土俵で戦うという、極めて珍しい光景が生まれます。日本相撲協会でも規定上、髪の長さが足りない場合は無理に大銀杏を結うことを強制せず、十分に伸びるまではちょんまげやざんばら頭での出場を認めています。ファンにとっては、その力士が桁外れのスピードで出世したことを証明する「勲章」のような姿として親しまれています。
【床山の超絶技巧】大銀杏を美しく仕上げる職人技と鬢付け油の秘密
力士の象徴である大銀杏は、相撲部屋専属の髪結い職人である「床山(とこやま)」の超絶技巧によって生み出されます。床山は相撲協会に所属する専門職であり、力士と同様に階級制(見習いから特等床山まで)が存在します。
大銀杏を結い上げる工程には、伝統の道具と卓越した手の感覚が注ぎ込まれます。
- 鬢付け油(オーミすき油):独特の甘い香りを放つ固形の油。手のひらで温めて髪全体に均一になじませ、驚異的な粘りとツヤを生み出します。
- 梳き櫛(すきぐし)・荒櫛(あらぐし):力士の太く硬い髪をミリ単位で整え、一筋の乱れもなく毛流れを後頭部へと集めます。
- 元結(もっとい):和紙で作られた強靭な紐。髷の根元を一切緩まないよう強烈な力で縛り上げます。
- 髷棒(まげぼう):先端のハケ先を扇状に美しく広げるための専用道具。床山が指先と髷棒を器用に使い、力士ごとに異なる頭骨の形に合わせて最適な角度に仕上げます。
熟練の床山は、激しい立ち合いで頭部が激突しても簡単には崩れない強度を保ちつつ、わずか10分から15分程度で芸術的な大銀杏を結い上げます。力士と床山の間には深い信頼関係があり、土俵に向かう力士の集中力を高める極めて神聖な時間がそこには流れています。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|断髪式と髷の行方
ネット上や一般的な会話において、「大銀杏は関取しか結えないのだから、幕下力士は一生結えないのか」という疑問が散見されます。実は、幕下以下の力士であっても大銀杏を結うことが許される3つの例外的な特例が存在します。
- 弓取式を務める力士:結びの一番の後に土俵上で弓を振るう力士は、幕下以下であっても大銀杏を結うことが義務付けられています。
- 巡業の「初切(しょっきり)」を担当する力士:相撲の禁じ手をコミカルに紹介する見世物において、関取役を務める力士が大銀杏を結う場合があります。
- 引退相撲の「断髪式」:関取経験のない力士であっても、長年の功績を讃え、力士生活最後の断髪式の土俵に上がる瞬間だけは大銀杏を結うことが認められます。
【プロの結論】厳格な序列と美意識が守り続ける「相撲界の魂」
大相撲における髪型の規定は、単なるビジュアルのルールではありません。実力主義が支配する厳しい縦社会の象徴であり、力士たちが「いつか必ずあの大銀杏を結って土俵に立つ」という強烈なモチベーションを抱く原動力となっています。
土俵上で整然と広がるハケ先の美しさは、力士自身の血のにじむような精進と、それを陰で支え続ける床山の職人魂が融合した結晶です。テレビや本場所で相撲を観戦する際は、ぜひ力士たちの頭上に宿る伝統の誇りに注目してみてください。
【大銀杏とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:大銀杏を結う力士は毎日髪を洗っているのですか?
A1:いいえ、毎日洗うわけではありません。鬢付け油をしっかり馴染ませて髷の形を保つため、洗髪は数日〜1週間に1度程度が一般的です。お湯と専用のシャンプーや固形石鹸を使い、時間をかけて油分を落とします。
Q2:大銀杏の重さはどれくらいありますか?
A2:力士の髪の毛の量や使用する鬢付け油の量によって異なりますが、髷全体でおよそ300g〜500g程度の重さになると言われています。強固に結われているため、頭部に適度な緊張感をもたらす効果もあります。
Q3:関取から幕下に落ちてしまった力士の大銀杏はどうなりますか?
A3:十両から幕下に陥落した場合、本場所の取組では原則として大銀杏を結うことができなくなり、通常のちょんまげに戻ります。再び十両に返り咲くことで、再び大銀杏を結う権利を取り戻すことができます。
まとめ:大相撲の土俵を彩る大銀杏が放つ伝統の真価
大銀杏(おおいちょう)とは、十両以上の関取のみに許された格式ある髪型であり、過酷な勝負の世界を勝ち抜いた者だけが手にする栄誉の象徴です。扇状に広がる美しいハケ先には、力士の頭部を守る機能美と、江戸時代から続く伝統文化の重みが宿っています。
大相撲の取組を観戦する際は、土俵上の熱戦だけでなく、職人・床山が結い上げた大銀杏の均整美や、出世スピードを物語るざんばら頭など、髪型に秘められたストーリーにもぜひ目を向けてみてください。 (出典: 大 銀杏 と は(Yahoo!ニュース))